目次
- 登場人物
- プレイヤーキャラクター
- シナリオ
- オープニング
- 泉(1)
- 異変
- 夢(1)
- 第一の犠牲者
- 葬儀
- 第二の犠牲者
- 現場に残された長い髪
- 神殿のフェルナール(1) "ブローチ"
- 神殿のフェルナール(2) "対峙"
- 夢(2)
- 泉(2) "対決"
- 終章、旅立ち
- フェルナール:
- 母親を亡くしたばかりの14歳の女の子です。父なし、しかもよそ者の子ということで疎外というほどではないにしても少々冷たい扱いをうけてきましたが、母親の死によりその傾向は強まっていくと思われます。はかなげな印象を与える美人で、あまり自己主張をしないもの静かな性格ですが、それは田舎ではいい印象を与えるとは限りません。
- 村人の最大公約数的な意見は「フェルナールちゃんかい? まあ美人だけどねぇ……」って感じで、特に大人の立場からすると、生産力に劣ると思われる点が問題になります。うちの嫁には取りたくないってね。
- 幼いときから母譲りの霊感を示し、神官としては母親を凌ぐと期待されています。
- ユーナルス:
- 数日前に他界した、フェルナールの母親です。もともとは村の神殿の拾われ子でした。15年前、17歳のときに村を訪れた旅人(実は若き日のPC4その人です)と恋に落ち、数日間をともに暮らしています。その後身ごもっていることが発覚し、村人からは白眼視されるものの、高い霊感をもち神官として優秀だったためその視線が具体化することはなく、前任者の死後は娘と二人で神殿を守ってきました。ちなみにフェルナールは母親似だといわれています。
- ラエノル:
- 村長。最近代替わりした若手で、かなり実利的・現実的な性格のためしばしば特に古い世代と衝突することがあります。とはいえ悪い人ではありませんが。
- PC1:
- とかく疎外されがちなフェルナールに対して、世代を問わずおそらく一番親身になっている15歳の少年です。彼女と彼女の持つ高い霊感や独特の雰囲気に対して、自分や自分の周囲の人間が持ち合わせない何かや自分たちの知らない世界を感じており、そういった未知に対する素直な畏れと尊敬と興味、そしてそういった存在であるにもかかわらず疎外される弱者に対する同情と義憤といった感情を抱いています。それ以上かどうかは知りません(笑)。フェルナールからも信頼と親しみを寄せられています。
- PC2:
- PC1の隣家に生まれ育った、PC1とは幼なじみの14歳の女の子。世話焼きで健康優良児です。フェルナールの立場や境遇に対して同情を寄せる一方で、PC1が入れ込みすぎることに内心で懸念を抱いています。なんとなれば、それは村人の反感を買うことになるのですから。もちろんそれ以外の理由もあるかもしれませんがわたしは知りません(笑)。
- PC3:
- ユーナルスの友人でさえあれば、年齢・性格・性別等は好みにしたがっていただいて構いません。ただし「友人(ユーナルス)を微妙な立場に追い込んだ男とその血をひくフェルナールを憎んでいる」などというのは不許可です。
- PC4:
- 35〜40歳くらいの男性で、"想医への道"を模索する旅の呪医です。外見で目をひくのは髭小人のようにたっぷりとたくわえられた髭で、そのために実際はどんな顔をしているかわかりません。
- (注)PC4は「秘密の過去」のある人物です。PC4のプレイヤーに以下の資料を読ませ、質問してください。その答えはシナリオ中で重要になってくるはずです。
- 15年前、"風読み"の師の下を離れたばかりの駆け出しの魔術師だったころ、あなたはこの村でユーナルスという名の美しい女性と恋に落ちました。しかしあなたには理由があり、旅を止めるわけにはいかず、彼女もまたこの地を離れることはできませんでした。幸福な数日の後、あなたはこの地を離れました。
- そして今。あなたは自分の道を"想医への道"と見定め、そこへと至る術を求めて旅を続けています。その途上、二度とは訪れるまいと心に決めていた村を見下ろす丘を過ぎ行くとき、村の中を葬儀の列が進んでいくのが目に映りました。言い知れぬ胸騒ぎを覚えたあなたは、誓いを破って村へと向かいます。
- 15年前の風貌や、なにかほかの人に与えた印象があれば決めてください(村人やPC3が覚えているかもしれません)。
(質問)
- 彼女の面影はあなたの中に残っていますか? それはどんな印象として、ですか?
- 別れ際、あなたは彼女に銀のイニアの葉のブローチを贈りました。そのことを覚えていますか?
- フェルナールに彼女の面影を見出すでしょうか?
- あなたは彼女とともに何度も山の泉を訪れていますが、覚えていますか?
(注)
PC1とPC2、それにフェルナールを含めた関係は、プレイヤーとマスターの趣味に合わせて「お友達」でも「幼なじみ」でも「筒井筒」でもなんでもありです。マスターがPC同士の間に一つの感情に基づいた関係を強要するのはあまり好きではないので「それ以上かどうかは知りません(笑)」となっていますがもちろんそういう関係にしてしまえばさらに面白いのは自明の理。実際のプレイでも不慣れながらにがんばってもらいました。
(わたしがやらせたんじゃないですよ。プレイヤーがやりたがればこそってことで)
それから、PC4の髭は変装ですのでハタチ前後の彼の面影を隠すことができていれば他の格好でもかまいません。素面で変わってしまっているとそれはそれで面白くないので、その気になれば当時の面影に戻ることができるという前提があったほうがいいでしょう。まあシナリオを読めば一目瞭然ですが。
春のもっとも忙しい季節は過ぎ去り、山々も野も畑も新緑に色づき、さわやかな風が木々を揺らしていく、カザルの芽吹くころのそんな平和な農村の風景は、しかし、神殿から歩み行く一行の姿に、その平和が見せ掛けに過ぎないことをも訴えているかのようです。
先頭を歩くのは、14、5歳と思しき美しい少女です。死者を送る純白の衣に身を包み、一輪の白い花を携え、静かに、静かに村外れへと歩いていきます。
その後ろには、白い棺を肩に担いだ若者たち、そして幾人もの村人たちが更にその後ろに付き従っています。みな白い衣に身を包み、白い花を携え、押し黙ったまま、ただ足音だけが風に紛れて飛んでいきます。
重苦しい行進は村外れで終わりを告げました。一本の大きな不死緑樹の周囲には、たくさんの墓標が並んでいます。その一角、ひときわ真新しい墓標の前の大きな穴の中へと棺が納められ、相変わらず誰一人として口を開かぬまま、棺には参列者の手によってひとくわひとくわ土がかぶせられていきます。
やがて穴がすっかり埋められてしまうと、ずっと墓標の傍らで見守っていた少女が何事か口にしながら、右手をまっすぐに伸ばして盛り土の上に白い花をかざそうとしました。しかし、とうとうこらえきれなくなったのか、彼女はうつむき、堅く目を閉じると身を翻して駆け出します。ぱさりと音を立てて、草の上に一輪の小さな白い花が残されました。
思わず後を追おうとした少年を、傍らの少女がひきとめます。
走り去る少女を見送る大人たちの間には、友人を失った悲しみだけとは思えない、どこか冷ややかな空気が流れているようでした。
PC4は丘の上からそれを見て、大急ぎでこちらへ向かっているので好きなシーンからその場にいたことにしてかまいません。
[情報]
- フェルナールは山のほうへ走っていきました。
- PC1は神域とされる山の泉が、彼女のお気に入りであることを知っています。
- 泉は一応神官以外は入ってはいけないことになっていますが、厳しく戒められているわけではなく子供が入り込んだりするくらいは大目に見られています。村人なら一度くらいは入ったことがあるでしょう。ただし14、5歳ともなればもう子供だからと大目に見てもらえる年ではありません。
- PC4にとっては、泉はユーナルスとの思い出の場所です。
- PC3は、恋人と別れた後、ユーナルスがたびたび泉を訪れていたことを知っていますが、二人で泉を訪れていたことは知りません(想像はつくでしょうが)。
泉への道は、あまり人の通う跡はなく、うっそうと茂る木々の間を縫うようにして薄暗く続いています。
やがて行く手が白く明るくなるにつれて、ざわざわという葉擦れの音、さくさくという下草を踏む足音にさやさやという静かな水音が混じり始めます。登り切ると、森の中に慣れていた目には強すぎる白い光に包まれました。
一瞬のホワイトアウトの後、目の前には以前目にした通りのたたずまいを見せて、青草の中に丸く青い空が広がっています。澄んだ声を上げて、背中を見せたつばめとお腹を見せたつばめがその空を通りすぎていきました。
右手奥、ひときわ大きな木の根元にうずくまっている少女の、白い衣装と黒い髪が、すぐ頭上の梢にあわせて音もなく風に揺れています。まるで、悲しむ少女を慰めるかのように。
梢と裳裾と黒髪のワルツは、あなたたちが泉のほとりに姿をあらわすなり、ぱたりと途絶えてしまいました。
それきり、泉には静寂が訪れました。澄んだ水の流れさえも、何かに遠慮するように声を潜めて通り過ぎていくのが感じられます。
霊感チェック(目標値は適当に決めてください。以下全て同じ)。成功すれば、静寂の異様さが気のせいではないと感じます。これは、後に出てくるブローチの精霊体が、実際にそよかぜやせせらぎの精霊たちに干渉しているからです。
誰かに話し掛けられた場合のフェルナールの反応。
「ごめんなさい、今は一人にしておいて……」
「もう少ししたら、ちゃんと家に帰るから……」
「でも今はだめなの、お願い」
その日の夕暮れは見たこともないほど真っ赤に色づきました。野も山も、建物も人も赤一面に染め上げられていきます。
そしてさらに日が傾き、鮮やかな赤が黒ずんだ赤へと変わるころになって、赤黒い衣装に身を包み、長い黒髪を風に泳がせた小柄な少女が山を下りてきます。
PC1の姿を見つけると、彼女は近寄ってきます。
(ここからはPC1のプレイヤーに向けて読んでください)目の前の彼女が小さく「……いい人ね」とつぶやくのが聞こえます。そしてうつむき加減のまま、彼女はひょいとあなたの腕を胸に抱き、耳元にささやきます(周りに誰がいても)。「あなたのことがスキ。だから守ってあげるわ、あなたのこと」すっと体を離すと、笑みを含んだ切れ長の瞳があなたを射抜きます。くすりと笑い、彼女は身を翻そうとしました。
行為もセリフも表情も、あなたの知る彼女のものとは思えませんでした。
感覚チェック。成功すればフェルナールの胸元に飾られたイニアの葉をかたどった銀のブローチに気がつきます。
霊感チェック。成功すればぞくりと不吉なものを感じます。イメージは紫・緑・五芒星(逆)・円(逆)・馬(逆)・百合。
[情報]
- その夜はお葬式の後片付けがあり、手伝うならPCは皆、神殿に泊ることも可能です。
- PC4は神殿か村長宅にとめてもらわないなら野宿になります(村に宿はありません。PC4は少なくともかつてはそうであったことを覚えていて構いません)。
- ブローチはPC1、PC2は見たこともありませんが、PC3はユーナルスが例の男からもらったものであることを知っています。そして葬儀の場にいた全員は、その時には彼女がそんなものを身につけていなかったことを覚えています。
赤茶けた荒野と黒い空をバックに、良く似た顔立ちの3人の少女が立っています。
一人は、見慣れたフェルナール。
もう一人は2、3年後のフェルナールといった雰囲気の少女。(17才のユーナルス)
最後の一人は2人目と同じくらいの年格好ながらどこかぎこちなさを感じる少女。
みんな同じ姿、前日の葬儀のときにフェルナールがまとっていた純白の衣装を身につけています。
能面のように無表情のまま黙って立ち尽くすフェルナールの肩を後ろから抱くようにして、3人目の少女がいたずらっぽいとも意表を突かれたともとれる表情を浮かべています。
2人目の少女は、必死に何かを、それがフェルナールに対してなのか、もう一人のそっくりな少女に対してなのかはわかりませんが、とにかく何かを訴えかけています。その胸元には、銀色のイニアの葉のブローチが輝いています。
3人目の少女はくすりと笑ってかぶりを振ります。
そうして彼女が右手を上げ、指を鳴らす動作をすると、2人目の少女の胸元のブローチが姿を消し、フェルナールの胸元に現れます。
視界が暗転し、その闇の中で銀の輝きだけが残りますが、それも一瞬で消え、あなたたちは目を覚まします。
翌日、イニアの実るころ。村人が大慌てで駆け込んできます。
クラッドさん(というのは村の長老の一人ですが)が、真っ二つになって死んでいたのです。
フェルナールは少しも驚きません。
「まあ大変。それではお葬式の用意をしなくては」
知らせに来た村人も思わず鼻白みますが、確かにそれこそが伝えに来た理由でもあるのでとりあえずは追求せずに戻ります。
他のPCが二の句が告げずにいるようなら、くすりと笑って「どうしたの?」くらいを口にします。
[情報]
クラッドさんの家は村の真ん中のほうにあります。フェルナールは神殿で葬儀の準備をしているためクラッドさんの家を訪ねることはしません。
遺体はもう棺に収められています。中を見ると布に包まれてはいますが、白無地のはずのその布には、腰より少し上くらいの位置で斜めに真っ赤な帯が染め抜かれています。
クラッドさんは伝統主義者で孤立主義者として知られています。村の外からの拾われ子でありさらに神官の立場にありながらゆきずりの旅人との間に子をもうけたユーナルスや、純血のよそ者(結局村で生まれたというだけで、彼女は両親ともよそ者なのです)であるフェルナールに対する最強硬派の領袖でもありました。
急なことではあるものの、葬儀が行われます。
葬儀を取り仕切る身として再び先頭を行くフェルナールの表情を後ろから窺い知ることはできませんが、彼女と親しいあなたたちにはどこかしら、あるいは何かしら、不穏な――とにかく良くないものを感じる気がして落ち着きません。
やがて棺が埋められると、最初に墓標の傍らのフェルナールが盛り土に白い花を手向け、みながそれに倣います。その時になって気付くのですが、彼女の胸元のブローチは不思議と輝きを失っており、同時にここしばらく彼女がまとっていた妙に挑戦的・挑発的な雰囲気が消えています。彼女はぼんやりとした瞳のまま滞りなく葬儀を進めていきますが、心ここにあらず、といった風情です。
葬儀の終わる直前になって、恐怖の表情を貼り付けた村人が数人駆けてきます。
次の犠牲者が出たのです。
彼女はそれを聞いているのかいないのか、葬儀の最後の仕上げを、周りの人間が唱和しないことも気にせず一人で終えるとふらりと行ってしまいました。
残された人々は格好の不安のはけ口として口々に彼女をののしりますが、ラエノルがもう遅いしこれから新しく葬儀をすることができないのは皆わかっているはずだと適当にその場を収めます。
二人目の犠牲者はアーラムというおばさんです。
ゴシップ好きで知られた彼女にとっては、美しくまだ若い女神官のスキャンダルは格好の標的でした。PC1〜PC3はフェルナールが彼女にからまれて困っているところを目撃したこともあります。
アーラムの死に様はクラッドさんと同じです。
遺体はとりあえず神殿に運ばれることになりました。
クラッドさんかアーラムの殺された現場へ行ったPCの一人(判断の基準はやはり「誰が見つけるのが一番面白いか」でしょう。一般にはPC1かPC2でしょうが、特にそのどちらかにこだわる必要はないのでセッション次第で決定してください)が、一本の長く美しい黒髪を見つけます。
それはフェルナールのもののように見えます。
シーン 神殿のフェルナール(1) "ブローチ" 場所は泉でもいいでしょう(PCの動き次第)
私室にて。
かすれたようにか細いフェルナールの声が聞こえてきます。
「どうして……、どうして、こんな……。 そんなこと……! 母さまもわたしも、そんな事は望んで……! 望んで……」
覗くなら、礼服である白い衣のまま疲れたように腰掛けたフェルナールと、その目の前の机の上に置かれたブローチが目に入ります。霊感チェックに成功すれば、ブローチの上、彼女と向き合うようにフェルナールに良く似た少女の姿が浮かび上がります。今朝の夢の3人目の少女です。彼女はいたずらっぽい表情でフェルナールを見つめています。しかし、はたしてその目の奥の輝きに悪意がないといいきれるでしょうか?
一方のフェルナールは、時折顔を上げるもののたいていはうなだれたままです。
「……どうして嫌がるの? あたしは愛するあなたのためを思ってしているのに。これはユーナの望みでもあるのよ。彼女はあなたを愛してたわ。あなたに悪意の降りかかることのないようにって」
「わたしのためというならもうやめて。あなたのしていることは母さまの想いに背いているわ。母さまはこんなことを望んでいたんじゃないはずよ。お願い、わかって」
「わかってないのはあなたのほうよ。母さま母さまって、あなたはユーナのことをどれだけわかってるのかしら。あたしはあなたよりも長い間ずっとユーナの想いを受け止めてきたわ。だからあたしのしていることがユーナの望みなのよ」
「そんな……」
「気にすることないじゃない。ずっとひどいことをされてきたんだもの。今まで良く我慢したわ、フェル。でももういいの、我慢しなくてもね。心配しなくていいわよ、あの男の子はケガ一つしやしないから。(くすっ)でもそうね、女の子のほうは邪魔かしら?」
「! なっ……!」
「くすくすくすくす。そうよねぇ、可愛い娘のためだもの、がんばっちゃおうかなぁ。でもその前に……、まずはあの男かしら。ユーナとフェルをこんなにも苦しめた相手だもの、いったいどうするのがいいかしらね……」
ちらりと扉に目をやる。
「とにかく、あたしはあたしのやり方を続けるわよ。あたしはそのために生まれたんだもの、ユーナの想いを遂げるためにね。あなたも覚悟を決めなさい。悪いようにはしないから」
「いや……!」
何かを拒むように激しくかぶりを振りながら、それでいてフェルナールの右手が机の上に伸びていきます。添えられた左手は、右手の動きを制するように力が込められていますが、ブローチとの距離はゆっくりと狭まっていきます。
かすれたようにもう一度小さく「いや……!」という声が上がった直後、とうとう右手がブローチに触れました。面白そうに成り行きを見守っていた少女の影が消え、それまでフェルナールの体に込められていた矛盾した方向の力が抜けると音もなく彼女は立ち上がります。
ブローチを握った右手を胸元にあてて、扉に空いた隙間に流した視線はここ数日の彼女のものでした。くすりと意図の読めない笑みを浮かべた彼女は、扉に対して半身の姿勢のままゆっくりと服を脱ぎ始めます。
(注)
フェルナールが脱ぐのは、PC1が覗いているのを想定しているためです。つまり、ブローチの少女は覗かれているのを知っていて、フェルナールとのやり取りを聞かせているわけですが、それが終わったということを行動でアピールしているわけで、純な少年が慌てて扉を閉めることを期待しているわけです。
わたし自身が変なことを考えているわけではないので、誤解なきように。実際のプレイではいっしょに覗いていたPC2が「女の子のほうは邪魔かしら?」といわれたとたんに扉を閉めて逃げ出したので脱ぐシーンは出せなかったし……。
夜になって、ラエノルと数人の長老が神殿を訪れます。
不可解な事件からの加護を祈願にやってきたのです。
簡単な状況と事情の説明をしてくれますが、目新しいことはありません。
「どうしてわたしのところへ?」
と彼女は問い掛けます。
「わたしのことをどう言っていましたか? (長老の一人に)クラッドさんとはお親しくしておられたようですけど、"卑怯者のよそ者と恥知らずの拾われ子の娘"にいまさら何の御用ですか?」
そう言われた長老は顔色を変えます。 「どういうつもりだ、おまえは神官だろう」
「母もわたしも、その務めを果たしているというだけです。イーヴォ神殿から派遣されているわけでもなく、在野のまじない師にすぎません。一方的に奉仕する存在ではありません」
まあまあ、とラエノルが間に入り、フェルナールを諭します。
今まではいろいろあったけれど、ここでいいところを見せればつまらない過去のことを言い出すやからも減るだろう、それにこのままではあんたやあんたの友人にも被害が出るかもしれないし、あんたに反感を抱いた連中があんたの友人に手を出さないとも限らないぞ。
フェルナールは不愉快そうに席を立ちあがり、去り際に一瞥をくれて
「……考えておきましょう。御用はそれだけですね」とだけ言い残します。
赤茶けた荒野と黒い空をバックに、良く似た顔立ちの3人の少女が立っています。
一人は、見慣れたフェルナール。
もう一人は2、3年後のフェルナールといった雰囲気の少女。(17才のユーナルス)
最後の一人は2人目と同じくらいの年格好ながらどこかぎこちなさを感じる少女。
みんな同じ姿、前日、前々日の葬儀のときにフェルナールがまとっていた純白の衣装を身につけています。
すぐに昨夜の夢の続きであることに気がつきました。
ぱちり。
指の鳴る音がします。
2人目の少女の驚き顔に、満足そうにくすくすと笑う3人目の少女は、肩からまわした指先でフェルナールの胸元のブローチをもてあそんでいます。
相変わらずフェルナールは無表情のまま、何の反応も見せません。
3人目の少女が口を開きます
「あたしを産んでくれてありがとう。でももうあなたはいらないわ。こんなところにいていいの? 神官として、最後の務めを果たしなさいよ。心残りは引き受けてあげるから心配しないでいいのよ」
「娘を放しなさい。母親として、スィーラの神官として、あなたの存在を許すわけにはいきません」
「それがいらない心残りよ。デュールの最後の恩寵を得たのなら、素直にメディートの御前に進む。それが人の子の姿なんでしょ、そう教えてきたあなたが自分の言葉を破るのは良くないと思うわ。悪い幽魔や妖術師に、その想いを悪用されちゃうわよ」
「そうなれば自分で後始末をするだけです」
「勇ましいわね。でもムダよ、あなたはもうスィーラの神官じゃあないんだもの。それに、あなたがこの子の母親だっていうならあたしだってそうよ。あなたがこの子に良かれと思うことをするようにあたしもそうするだけ」
そういって彼女は少し言葉を切り、暗唱するように一節の言葉を口にします。
「"この子に悪意と災いの降りかかることなかれ"、そう願ったのは、あなたかしら、それともあたしなのかしら?」
「いまさら何を驚いているの? あたしはあなた、あなたはあたし。だからあなたの想いはあたしが継いであげる。あの子のことも、あの人のこともね」
「まさか、あなた……」
「くすくすくす、ほんっとにわかってないのねぇ、あたしに隠し事ができると思ってるの? でもこんな機会が来るとは思ってなかったけど。ねぇどうしようかしら。すっごい苦労したのよねぇ、みんなあの人のせいでしょ?」
「や、やめて!」
「あらぁ、まさかとは思うけど娘よりオトコなの? そんなに取り乱してくれるなんて思わなかったな」
「あらあら、ひょっとして図星? 意外とひどい母親だったのねぇ……。でもだめよ、あたしにこんな苦労をさせたんだもの、それなりのお礼をしないとね。黙ってそこで見てなさいな」
そう笑って、3人目の少女はフェルナールを抱いたまま姿を消します。後には無力感と後悔に唇をかむ2人目の少女が残されました。
しかしそれも長くはなく、夢の時間は終わりを告げます。
翌朝。
前日に死体となったアーラムの葬儀を行わなければなりません。しかし、村のあちこちで更に死体が見つかります。村人たちは恐慌状態で、既に逃げ出した者たちもいます。
なにより、フェルナールの姿がありません。
彼女は、泉のほとりにたたずんでいます。上ってきた一行に向き直り、PC4に向かって告げます。
「あなたのほうから来てくれるとは思わなかったな。それ以前に、あなたがもう一度ここへ来てくれるとも思ってなかったけど。
「あたしの名前はフェルナール。あなたが捨てたユーナルスの娘よ。
シナリオのクライマックスです。
ここでどのようなやり取りが交わされるかを予測することは不可能です。
ですから、ここでは種明かしをするにとどめます。
事情がわかっていれば、盛り上げることができるでしょう。
全ては17年前、PC4がユーナルスに銀のブローチを贈ったときに始まりました。
別れた後もユーナルスはブローチを胸に、一番長くともに時間を過ごした泉のほとりで一途に男のことを想い続け、やがてその想いはブローチに素朴な感情を目覚めさせます。("土地との感情共有"および"物品との感情共有"とその発展ルール"アーティクルルール"参照)
ブローチはユーナルスのPC4に対する想い、そして彼との娘であるフェルナールへの想いをユーナルスと共有して時を過ごしてきました。
それから十数年。ユーナルスは命を落とす少し前にそのブローチを泉のほとりに置き忘れます。あるいは、それこそが何者かの意志だったのかもしれません。
アーティクルにとって所有者と離れることは時に致命的ですが、この場合は事情が違いました。
泉にはユーナルスのさまざまな感情が貯えられており、それはユーナルスの想いの双子とも言うべきアーティクルが自由に使うことのできるエネルギーとなったのです。そのため、ブローチは特にユーナルスの元へ戻ることを急ぎませんでした。
ところが、それからすぐにユーナルスは命を落とします。所有者との距離が開くことに対して耐性のあるアーティクルであっても、所有者が死んでしまってはどうにもなりません。葬儀の後のフェルナールに見つけられ、彼女を新たな所有者とするまでに(物品体によるコミュニケーション)、ブローチの人格には深刻な影響が出ていました。
それに、結局いくつかの感情しか持たないアーティクルに、言葉ある種族の想いを本当に理解することはできないということなのでしょう。
ブローチの精霊体はフェルナールを授かって以来の、「フェルナールを幸せにする」というユーナルスの想い、そのために、彼女に害意を持つ村人を殺し始めるのです。
このまま放っておけば、ほんの数人を残して村は全滅するでしょう。
フェルナールの意識はブローチに押え込まれていますが、自分とブローチが何をしているかは全て見て、そして記憶しています。ブローチがフェルナールの意識を解放しても、それだけではフェルナールは罪の意識に耐え切れなくなります(PCがブローチに対してフェルナールを開放するよう要求すれば、彼女はこれを理由に断ります。そして今のまま自分とともにいることが、フェルナールにとってもっとも幸せなのだと主張します。そもそもフェルナールが罪の意識を抱くようになった原因だと非難されれば実際に苦しめられているフェルナールを放っておくことはできないし、今解放すれば罪の意識に耐えられないけれども、そのうちこの子もわかるようになるし、そうなれば自分に感謝するだろうと答えます)。
少々(?)歪んではいますが、ブローチは確かに彼女なりに誠心誠意フェルナールのために尽くしているのです。フェルナールは彼女にとってもたった一人の愛娘なのですから。
一方で、PC4に対してはまた複雑です。ブローチはユーナルスとフェルナールを愛しています。そして、二人がこの村で苦労してきた原因がPC4にあると考えています。
ですから、彼を傷つけようとする動きも見せます。しかし、ユーナルスの想いを共有しているのですから、当然PC4のことを愛してもいるのです。
さて、どのような結論が導かれるでしょうか。
具体的な数値や方法は示しませんが、力技でアーティクルを壊す・滅ぼすのも解決方法の一つです。
もちろんその場合、後でフェルナールに怨まれたり(フェルナールはアーティクルのことを、そのものではないとわかってはいるものの母親とも認識しています。それに物品体は母親の形見でもあります)、罪の意識に耐え切れない彼女が自殺を図ったり、生き残った村人に事情を知られてリンチの末に殴り殺されたりする可能性は大いにあります。
また、ブローチが歪んだ原因として、メドンにそそのかされたという可能性もあります。
これは最初想定していたものの、実際のプレイでは使わなかったネタですが、この場合はとことん救われない話になる可能性が高いのであまりお勧めはできません。
つまり、アーティクルを滅ぼすしか方法がなくなるため、その後フェルナールが悲惨なことになってしまうのです。
フェルナールはいったいどうなったでしょうか?
幸せになれましたか? それとも
幸せなままでしょうか?
そして、あなたのキャラクターは幸せでしたか? 幸せになれましたか?
あなたは、楽しめましたか?
このシナリオはこれでおしまいです。
もしもあなたが楽しめたなら、またいつか、
かりそめの大地でお会いしましょう。
fin.