オオカミ( Canis lupus) の保護管理
亀山明子(知床財団)・仲村 昇(山科鳥類研究所標識研究室)・宇野裕之(北海道環境科学研究センター自然環境部道東地区野生生物室)・梶
光一(北海道環境科学研究センター自然環境部自然環境保全科)・村上隆広(斜里町役場環境保全課自然保護係)
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クマの生息数が多い場合,オオカミは有蹄類の個体数を低い密度で抑えられることがある。これは,オオカミが襲った被捕食者の死体をクマが横取りするため,結果的に多くの被捕食者が殺されることによる.
第二次世界大戦後,北部と中部ヨーロッパの全ての国でオオカミは絶滅した。1960年代以降,ポルトガル,スペイン,イタリア,ギリシャ,フィンランドでは,人口の少ない山岳地域に孤立した小規模の個体群が残るのみとなった
フランスやイタリアでは,保護策への転換にともなって,個体群が回復してきている。また,ドイツ,スイス,スウェーデン,ノルウェーでは,隣国で増加した個体群からオオカミが自然分散してきており,再定着の兆しが見られる.また,東欧諸国には多数の個体群が存続している
アラスカを除くアメリカ本土に生息するオオカミは,1974年に保護対象となった.現在,この地域のオオカミ生息数は2,000頭を超え,アラスカ州の約5,000-8,000頭,カナダの約50,000頭と合わせて,北米には約6万頭のオオカミが生息すると推定される。
オオカミの生息する地域ではどこでも家畜被害が発生しており,オオカミの保護管理で最も深刻な課題となっている.
イタリアでは,オオカミによる家畜被害に対して,1970年代から補償プログラムが実施されているが,被害を与えたのがオオカミかイヌかを判別するのは極めて難しいため,イヌによる被害もオオカミ被害として報告され補償金が支払われているケースも多いと思われる
ポルトガルでは、家畜被害が発生している北西部で銃や毒エサによるオオカミの駆除が行われている。ヨーロッパでは20世紀以前にフランス,エストニア,北イタリアなどで人身事故発生の記録があり,これらの地域では1750-1900年間で数百人以上の死者が出ている。
とくに欧米では20世紀以降,オオカミによる人身事故件数は激減し,過去50年間のオオカミによる死者は北米で0人,ヨーロッパで8人,ロシアで9人であった。このうち,ヨーロッパの4人とロシアの5人は狂犬病に感染したオオカミによる死者である。
オオカミの保護を行う上で重要な要素となる家畜被害を減らす為にも,偶蹄類の種数と個体数を増やし安定的なエサ資源を確保する事が必要である。
アメリカ全体で見ると再導入への支持率は比較的高かったが,地元では牧畜業者を中心として反対する人が多かった.地元の3州で実施された1987年の調査では,モンタナで賛成43.7%反対40.3%,ワイオミングで賛成48.5%反対34%,アイダホ州で賛成56%反対27%であった。
オオカミの再導入が他の動植物に与える影響については,コヨーテの生息密度がオオカミの排他的行動によって減少したことが報告されている.エルク個体数への影響については,厳冬や山火事,雨不足などの気候変動,マウンテンライオンやグリズリーによる捕食圧,国立公園周辺部の狩猟圧といった様々な要因が個体数の変動に影響を与えているため,オオカミの捕食による影響の評価はなされていない。
家畜被害は特定の農家に集中して発生する傾向がある。
オカミによる家畜被害の補償はNGOによって行われている.「野生動物の擁護者
(Defenders of Wildlife〔1947年に設立,会員38万〕)」という自然保護団体がオオカミによる家畜被害を補償するための基金を1987年に設立した。
イエローストーン生態系では,オオカミの再導入によって当初はエルク個体群を5-30%減少させることが予測されていた.現在まで,そのような効果は確認されていない。
オオカミを再導入すれば、知床国立公園の周辺地域において家畜被害は必ず発生するだろう.飼い犬への被害も少ないながら発生すると思われる.
北米では人馴れしたオオカミによる人身事故の事例が少数ながら発生している.
人との軋轢の防止やトラブル発生後の対策や補償体制,保護管理の法体制の整備と予算の確保,オオカミに対し社会的合意を得るための教育,オオカミと被捕食者に関するモニタリングといった活動を効果的,継続的に行うことがオオカミ再導入に求められる.これらの活動には莫大な人的・金銭的コストが必要とされる.今回の調査では,日本でオオカミを再導入した場合のコストの試算は行っていない.
オオカミ再導入にあたっては,それ自体の影響だけではなく,社会状況や経済状況,オオカミ以外の野生動物種の保護とのバランスも考慮しながら検討することが必要であろう.
原論文は以下で見られます。
http://shir-etok.myftp.org/page/shuppan/kempo/kempo26/07_KAMEYAMA-etal.pdf
(要約・文責:原 亨)
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